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1.4 冗長性のある大型構造物
冗長性のある大型構造物では、一部の構造が破壊しても、船としての機能は失われないことが多い。また、き裂が発生し、ある程度まで進展すると停留するケースも考えられる。このような特徴はき裂判定に生かされてもよいはずである。しかし船体構造の冗長性とは具体的にどのようなものか、研究と設計の境界にあって、その定量的知見はきわめて乏しい現状である。
この問題の解決には有限要素法による大規模な解析とともに伝播解析手法が必要になってくる。SR219では伝播解析手法を実船構造に適用して、冗長性のある船体構造の以上のような特徴を明らかにしようとしている。
また、例えば、外板の近傍で外板に向かうき裂と、外板から離れた問題が少ない場所のき裂とは、同じ長さであっても危険度は大幅に異なることは明かである。そのような知見を疲労き裂判定に反映していくことを指向していくべきと考える。
この考え方は安全性を切り詰めることではない。重傷のき裂とそうではないき裂を峻別して取り扱うことにより、全体的に安全性を向上させる新しい枠組みを指向すべきであり、SR219はそのための実用的解析手法を提供するものである。
1.5き裂の発見長さ
き裂は溶接部から発生することがほとんどである。現在行われている目視検査によれば、実験室においても、実船においても、隅肉溶接継手の角巻き止端部のき裂はその先端が溶接部から離れる頃から発見されている。大型船の板厚・脚長を前提におくとその長さは30mm程度である。この長さは該部における実用的な最小発見長さといえる。
もう一つの重要な発生個所は隅肉溶接継手および突き合わせ継手白身である。その継手に沿ったき裂の長さについて、一般的に目視検査で発見される長さを議論することは難しい。その理由は前記角巻き止端部に比べ発生個所の応力の種類。大きさおよび集中度が様々であることによる。
き裂の長さを明確にしないと「疲労寿命」の推定値と損傷実績の対比も困難であり、その改善が必要である。SR219はその取り組みの出発点と位置付けられる。
1.6SR219研究の概要
伝播解析手法を有効活用することこそ、今後の疲労破壊防止対策の改善を考える上で大切なことである。そのためのSR219の研究の概要は以下の通りである。
伝播解析手法の実用化をめざす上での主な問題点は、次のようなものであった。
?よく使われる伝播則(パリス則)は高張力鋼を用いた船体構造での実証データがないこと。
?伝播速度に影響する種々のパラメータ、例えば荷重パターンの影響や平均応力の影響の程度が不明であること。
?伝播解析に必要な応力拡大係数の算定は、通常の応力解析より難しいこと。
?従って、報告された実船構造の伝播解析例がきわめて少ないこと。この問題を解決するため、次の方針で臨み実施してきた。
(1)船体溝造における伝播解析手法の実験データ整備のために
・高張力鋼を用いた実物大の構造において伝播試験を実施し伝播則を検証すること。
・溶接止端部を持った実板厚の中型試験片で各種影響因子の影響を把握すること。

 

 

 

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